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あなた、一体誰?「覚醒コイキング」なる未知の料理を食べてみた

なんとも激しい見た目と名前の魚料理を出している店が長崎県佐世保市にあるらしい。手がかりは、「覚醒コイキング」という料理名とネットで見つけることができたいくつかの写真。この魚はいったい…?どんな味がするんだろう?「フカメディアの目」こと取材班は、すぐさま潜行を開始。佐世保の町に到達した。

軍港として栄えた町の、魚が美味い店

やってきたのは佐世保駅と佐世保中央駅のちょうど真ん中くらい、岩山に掘られた戦時中の防空壕を活かして作られた商店街「とんねる横丁」から少し南に下ったところにある佐世保市塩浜町。

小ぶりな飲み屋街、といった風情の通り角で煌々と光を灯す居酒屋が見えた。店の名は「優yawaragi」。看板の下には「魚と炭火と日本酒。」と掲げられている。どうやらここが「覚醒コイキング」の発信源だ。

店内にはカウンターが7席と、奥に座敷がいくつか。入ってすぐのカウンターの端に陣取るやいなや、気持ちがはやって前のめりにメニューを開いた。枝豆、冷奴、鶏の串物…スタンダードな居酒屋メニューが並んでいる。おや?目当ての魚料理が見あたらない。もう提供を終了してしまったのだろうか?はるばる佐世保までやってきたこともあり、気落ちしながら最後のページをめくる。

いた。

事前に見た写真のとおり、一度見たら頭から離れがたい形相でメニューに収まっている。皿の上ですっくと自立した姿は、どこか誇らしげにも見える。味への期待をますます高め、注文をすませた。店内に流れる1980年代の懐かしい名曲たちが醸し出す満点の酒場感に身をまかせ、しっぽりとその時を待った。

やっかいな魚が人気メニューに

一杯目の酎ハイグラスを空けたころ、ついに対面の瞬間がおとずれた。運ばれてきた黒い皿がコトリと静かに着地する。「ついさっきまで泳いでました」といわんばかりの躍動感だが、頭にはこんがりと焼き色がつき、ぽっかりと口を開けている。やはり、激しい。あまりにも、激しい。

目の前に差し出されたのは、鎧を着込んだような薄黄色の魚。そう、マツカサウオだ。

マツカサウオはキンメダイ目マツカサウオ科の魚。背と腹に太く尖った棘があり、下あごには発光器を持つ。見た目がまつぼっくり(まつかさ)に似ていることから、その和名がついた。特徴的な見た目と、発光器に棲みつくバクテリアがほんのりと光る生態から深海魚だと思われがちだが、実は水深100mくらいの岩礁に生息する。

長崎では底引き網にかかることがあるが、基本的に売れない魚なので捕れても海へリリースしてきたとは、オーナーで元漁師の切里優太さん。漁師時代の繋がりで独自の仕入れルートを持ち、ギンザメやトウジンなどの珍しい深海生物や、これまで食用に供することが一般的ではなかった魚などを提供している。

ちなみに「覚醒コイキング」というネーミングは「完全に思いつき」とのこと。お察しのとおり、ポケモン由来だ。ピチピチと画面の中で跳ねるあのオレンジ色のコイキングが、脳内でこんがり焼けた姿に置き換わっていく。

硬すぎるウロコの下に隠した絶品の白身

調理はシンプルに、高温のオーブンで15分ほどしっかり焼きあげる。ウロコが分厚く硬いので焦げない。オーブンの高熱にも負けないほど硬いウロコを持つ魚を、さて、どうやって食べればいいのだろうか。

写真で見た時には素揚げかと思い、頭からバリバリかじるのかもしれないと考えていた。しかし捕食者のアゴが砕けそうなほどの硬さを知った今となっては、そんなことをすればいろいろと大惨事になることは容易に想像できる。考えただけで口の中が痛む。

攻略法が分からずひととき対峙していると、この店の料理長を務める久保田さんがすかさず「切れ込みから頭を外し、ウロコを剥がして身を食べる」のだと説明してくれた。教わったとおり、身体を持つ指に少し力を入れて頭を外しにかかる。スポッと気持ちよく取れ、ワタが見えた。

次はウロコを剥がすと言っていたけど、すごく大変なんじゃ…?おそるおそるやってみると、ミシミシっと大きく剥がすことができた。シッポを持って引き抜けば、もっと上手にガバッと取れたのかもしれない。荒っぽく扱うのはとっても痛い思いをすることになるので、おすすめしない。ここはぜひ、はやる気持ちをおさえて慎重に。

海の中でどれほどの脅威から身を守ってるの?と聞きたくなる、完全武装のウロコ。その下にはゼラチン質の脂を湛えた白身が隠れていた。カチコチと音がしそうな外見からは想像できないほど、厚みと弾力がありツヤツヤと光っている。

白子のような質感すらあるツヤツヤの身を、別添えのピンク岩塩にちょんと付けていただく。つるんとした脂と甘みを舌で感じるけれど、クセがなくあっさり。熱燗をきゅっとやれば、脂がいい感じに中和されてエンドレスにいけてしまう。これは危険な組み合わせである。ぱくり、きゅっ…ぱくり、きゅっ…。

この美味しさは徐々に広まりつつあるようだが、他に提供している店は「長崎では聞いたことがない」と切里さん。まだまだ珍しいマツカサウオ料理、見た目に怯むことなくぜひご賞味あれ。

無限に飲んでしまう前に、小さな身体から身が尽きた。ごちそうさまでした。

食の新たな扉をオープンしちゃった翌日、わたしは九十九島水族館海きららの水槽を泳ぐマツカサウオを眺めていた。
「おまえ、実は美味しかったんだね」
激しい見た目と名前に反して、心を静かに満たしてくれた味を思い出していた。

居酒屋 優yawaragi
住所:長崎県佐世保市塩浜町2-16 1F
営業時間:17:00〜0:00
定休日:日曜

◆珍魚の入荷情報はInstagramにて
https://www.instagram.com/yawaragi.1117/
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