冬、それは深海生物がすこし身近になる季節。
浅海と深海との水温差が小さくなることなどから、採集がしやすくなるためだ。「寒い!」と感じたら、それは深海生物のシーズン到来の合図。この時期には、各地で深海生物をフィーチャーしたイベントが数多く開催される。
東京・池袋にあるサンシャイン水族館もそのひとつ。年が明けると「ゾクゾク深海生物」なる特別展示が開催されるのが恒例になっている。フカメディアは、今年で8回目となった「ゾクゾク深海生物2024」に潜入してきた。
深海生物たちの日常にふれる生体展示
毎年変わる展示テーマとビジュアルテーマ。1月12日から3月17日まで開催される今年は「遠いけど近い!?近づきたい!深海の世界」がテーマで、8bitグラフィック風の深海生物たちが館内のあちこちで何か言いたそうにこちらを見ている。
屋外エリアのフォトスポット。「あらわれた!」のはニンゲンの方というのがポイント。
1月12日、朝9時55分。開館を5分後に控えた入り口前のチケット売り場には、平日にもかかわらず列ができていた。水族館の広報担当者によると、この季節はいつもお昼ごろから混みはじめるとのこと。朝イチは比較的ゆっくり見られる狙い目の時間帯のようだ。
エントランスを入ればすぐに、タカアシガニがピースサインで迎えてくれる。もっとも、グーとかパーとかサムズアップをしたカニを見たことがある人はいないだろう。カニはいつもピースしていることを宿命づけられた生きものなのだ。
お腹にある通称「ふんどし」をウィーンと開け「洗濯」をしているように見えるタカアシガニ。
タカアシガニの展示は、サンシャイン水族館では4年ぶり。目の前にいるのは、飼育スタッフの上市光之(かみいちひかり)さんが底引き網漁の船に乗りこみ、水深300〜500メートル付近から引き揚げてきたもの。輸送中に他の生きものにイタズラをすることがあるため、爪を縛って運ぶのだそう。以前、仲間を爪ではさんでブン投げるカニを別の水族館で見たことがある。ピースはしてるけど、気性はピースフルではないらしい。
生体はこの日、アカザエビ、ヒメカンテンナマコ、ダイオウグソクムシ、キホウボウ、トリノアシが展示されていた。待望のメンダコは不在で、今は液浸標本が影武者のように展示されていた。ただ、イベント期間中も定期的に海へ採集に行くとのことで、生物は追加や入れ替えがある見込み。採集の成果次第では今後、メンダコの生体も登場するかもしれない。最新情報はSNSなどで告知される。
マニアックな関連イベントもゾクゾク
そのほか、さまざまなツアーやトークイベントが予定されていて、飼育スタッフによるディープな深海トークが繰り広げられる「深海トーク」が2月18日に、閉館した館内を大冒険しているかのような体験イベント「ゾクゾク深海クエスト」が2月11日・25日・3月10日に、営業終了後の18時15分以降から開催される。いずれも水族館の入館チケットとは別に、イベントチケットの購入が必要。
「ゾクゾク深海クエスト」のイベントチケット購入者には、こちらも4年ぶりの登場になる「深海汁」を購入する権利が同時に与えられる。ほとんど出回っていない未利用生物の深海性エビから作られる深海汁。採集状況によって具や出汁が変わるといい、闇鍋のような様相を呈している。
見た目が激しい深海汁、どんな味がするのだろう。
「知るを深める」を掲げるフカメディアとしては、汁をも深めずしてなんとする!という感覚があるのだが、諸々の都合からこれは断念した。3日ともに参加し、各日の深海汁レポートをしてくれるような猛者が現れないかと、過度な期待をして静かに待ってみようと思う。
「ゾクゾク深海ツアー2024」に潜入
汁は深められなかった取材担当だが、イベントのひとつ「ゾクゾク深海ツアー2024」に潜入することができた。通常1日2〜3回おこなわれているバックヤードツアーの、午前の回が深海仕様になった特別バージョンだ。
開催は毎日11時からの1日1回のみ。およそ40分のツアーで、定員は各回先着15名。当日、チケットブース横にあるカウンターで申し込み、1名1,500円を支払うことで参加できる。参加者には8bitグラフィック風ビジュアルのパスが配布され、中に入っているカードはおみやげに持って帰ってOK。
参加者に配られるパス。メインビジュアルが名刺サイズになっている。
ツアーは11時きっかりに集合場所を出発し、「関係者以外立ち入り禁止」のドアをくぐる。ガイドを務めたのは上市さん。彼女は高知大学の農学部(※当時)で学び、2022年に国内最長記録を達成したメンダコの飼育にも携わった。
スタート直後に上市さんが、参加者たちに好きな深海生物は何かと問いかける。ここで名前があがった生物に関わる時間を多く取れるよう、可能な範囲で調整してくれるそう。ここはしっかりアピールしておくと、後でいいことが起こりそうだ。
バックヤードをしばらく歩き、スタッフさん達がテキパキと仕事をしている調餌場へとやってきた。作業台に、いずれも深海ザメのヨロイザメ、ユメザメ、ラブカの冷凍標本が用意されている。見た目には恐ろしげな、ふれあいタイムのはじまり。
欠損や傷のない、とても綺麗な冷凍標本がならぶ。
ウロコの向きに逆らうと指を傷つけてしまうので、必ず頭から尾びれに向かって触るよう注意があった。逆撫ですれば痛い目にあうのだ。人の神経もサメの身体も、逆撫でしてはいけないと心に誓いながら鮫肌をそっと撫でた。
このほかオオグソクムシとオオコシオリエビの生体や、さまざまな生きものの液浸標本が惜しげもなく披露された。この日は「タカアシガニが好き」という参加者がいたため、最後に予備水槽にいるタカアシガニを観察。あっという間に40分が経ち、ツアーは集合場所にて解散となった。
標本でダイオウグソクムシの裏側を見せる上市さん。
いろいろなアプローチで深海生物たちが迫ってくる、「ゾクゾク深海生物2024」。ショップにはイベントに合わせたグッズもたくさん並んでいるので、水族館を出る最後の最後まで楽しめる。
水族館の「ショップアクアポケット」には特設コーナーが設けられている。
期間中の展示生物の追加・入れ替えなどの最新情報は、サンシャイン水族館のSNSなどでご確認を。
ゾクゾク深海生物2024
開催期間:2024年1月12日(金)〜3月17日(日)
時間:10:00〜18:00 ※最終入場は17:00
場所:サンシャイン水族館
東京都豊島区東池袋三丁目1番
ワールドインポートマートビル屋上
スペシャルサイト:https://sunshinecity.jp/file/aquarium/zokuzoku_deep_sea_2024/
Twitter(X):https://twitter.com/Sunshine_Aqua
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