沖縄美ら海水族館を運営する一般財団法人沖縄美ら島財団が、2017年から取り組んできた胎性サメ類の早産胎仔の救命を目的とした人工子宮装置を大幅に小型化。深海ザメ「ヒレタカフジクジラ」胎仔の育成と人為出産に成功したと発表した。装置は沖縄美ら海水族館内の「サメ博士の部屋」にて展示されている。
育成中の深海ザメ「ヒレタカフジクジラ」の胎仔
サメは約6割の種類が胎生で、胎仔は数ヶ月〜数年の妊娠期間を経て出産する。研究チームでは2017年より、母体外で胎仔を育成するための「人工子宮装置」の開発をおこなっており、2020年には独自に開発した装置を用いて、深海ザメ「ヒレタカフジクジラ」の胎仔を5ヶ月間にわたり育成することに成功。さらに、その翌年には装置で育成したヒレタカフジクジラ胎仔の人為出産に世界で初めて成功している。
しかし2020年に開発したこの装置は、総重量が1トンと非常に大型。そのため水族館などの施設内での運用に限られており、搬送に数日かかるような遠隔地で回収された早産胎仔には適用できないという課題があった。さらに、定期的に必要な人工羊水の交換作業が大掛かりになるという運用上の課題も抱えており、小型の人工子宮装置の開発が求められていた。
今回開発した装置は、(1)最小限の人工羊水で育成する、(2)水濾過フィルターを省略する、(3)水温維持に小型冷蔵庫を利用するなどの大胆な変更により、仕組みを極限までシンプルにすることで総重量を20分の1以下まで小型化。人力で移動や、小型船・自動車などに積載可能なサイズとなったことで、施設内での運用だけでなく野外での使用が初めて可能に。海上で回収された早産胎仔の長時間搬送など、将来的に絶滅危惧種の保全のために活用されることが期待される。
円筒ガラス容器に入れた胎仔を、人工羊水で満たした水槽に収容(A)水槽を冷蔵庫に入れ、12℃で維持する(B)
装置の有効性を検証するため、2023年12月から2024年2月にかけて、ヒレタカフジクジラの胎仔6尾を小型装置で育成。その結果、胎仔は出生サイズまで成長し、人為出産を迎えた。研究チームは、今後さらに装置の改良を進め、水族館における獣医療の充実と、野生個体の保全のために寄与していきたいとの考えを示している。
研究成果は国際学術誌MethodsXにて発表された。
掲載論文
https://doi.org/10.1016/j.mex.2024.103063
Tomita, T., Kaneko, A., Toda, M., Morota, H., Murakumo, K. and Sato, K., Portable-size artificial uterine system for viviparous shark embryos, MethodsX, 13(2024)103063
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