ときどき水族館に登場しては、注目を集めるメンダコ。耳のような小さいヒレをパタパタさせたり、水の中をスーッと移動する姿は見ていて飽きないものです。そんなキュートな仕草もあってか、いつからか「深海のアイドル」と呼ばれ、最近ではコンビニに並ぶお菓子のパッケージなど身近な場所でも見かけるようになりました。
もはや当たり前のように受け入れている、メンダコ=深海のアイドル説。いつ、誰が言いはじめたのか、スケおじさんとともに紐解きます。
メンダコはいつからアイドル?

スケおじさん、今年もよろしくお願いします。
これはこれは編集長さん。ア、ハッピーニューイヤーですよ。


今日また、新江ノ島水族館に生きているメンダコが登場(※2025年2月26日現在)して、「見たい!」「会いたい!」と界隈がザワついています!
おやおや。メンダコちゃ〜んがこちらの世界におじゃましていましたか。


やっぱり人気者ですね〜。
このメンダコ、「深海生物のアイドル」と呼ばれていますが、いつ誰がそう呼んだのでしょう?
なるほど。小事にこだわる編集長さんらしい疑問ですね。

それ、褒められてないのでは……。


フ〜カ~〜!!
私のぐ〜るぐる検索エンジンによると、2012年12月13日に新江ノ島水族館が公開した動画のタイトルに「お耳が生えた深海のアイドル」と付いているのが確認できましたよ(ニッコリ


2012年!想像していたより、ずっと昔でした。
新江ノ島水族館が発祥なのでしょうか。
ややっ!メンダコちゃ〜んのことを「とってもとってもかわいいのですが、すごく臭いです」と紹介している2012年4月22日付の「えのすいトリーター日誌」も見つかりました。ここには「アイドル」という言葉は見当たりませんねぇ。


2012年の4月から12月のあいだに、メンダコ=深海のアイドルという概念が誕生した可能性がありそうですね。ちょっと「えのすい」さんに聞いてきます!
江ノ島へ行かれるのでしたら名物の丸焼きたこせんべいを……って、もういらっしゃらない。


フカァ……。
【フカメさんの豆知識】
「えのすい」の愛称で知られる新江ノ島水族館はJAMSTECとの共同研究がさかんで、深海に関する展示が充実している水族館のひとつだぞ。

メンダコをアイドルにしたのは「えのすい」なのか

「えのすい」さんが当時のことを調べてくださいました!
私のぐ〜るぐる検索エンジンのとおりだったことでしょう。


たしかに「えのすい」さんがメンダコをアイドルと呼んだのは、先ほどのYouTubeが初めてだったようです。
ではやはり、メンダコちゃ〜んをアイドルにしたのは新江ノ島水族館ということで今回は解決ですね。


それが……アカグツやミドリフサアンコウをアイドルと表現した2012年6月1日付けの「えのすいトリーター」日誌が発掘されました。広報の山崎秀之さんは、「もっと前から深海生物をアイドルに見立てる風潮があったように思う」と。
事情が複雑になってきましたよ。


さらにそこから5年も前の2007年に、山口県にある萩博物館がチョウチンアンコウの仲間を深海のアイドルと紹介したWEBページが見つかったんです。
これは興味深い。ぜひもっとフカ掘りを……またいなくなってしまいました。


フカカカカ!!
ついでに判明!深海のアイドル誕生の瞬間

スケおじさん!すごい!!すごいですよ……!
戻られるなり熱水を噴き上げるチムニーのような盛り上がり。どうされましたか?


2007年にチョウチンアンコウの仲間をアイドルと紹介したご本人にお話を聞くことができました。
なんと、現在も変わらずご活躍。深海のご長寿さんことオンデンザメさんですかな?


いえ、萩博物館の総括研究員で水産学博士の堀成夫さんですね。
深海ジョークをかわされてしまいました…。


2007年の企画展「君と竜宮城へ」を担当された堀さんが、親子連れに楽しんでほしいと考えて深海生物にアイドルという肩書きをつけたそうです。
堀博士は当時をこう話しているぞ。
年配の方の来館が多かった当館で親子向けの生きものの展示会を実施することになり、当時(今もですが)世間の注目を浴びていた深海生物を取り上げることになりました。
その過程で、少しでも多くの親子に親しんでいただくため、深海生物にさまざまな「肩書き」をつけて紹介しようとしたものです。「深海のアイドル」にふさわしいと考えたのは次のような理由だったと思います。
・見た目が可愛かったり、個性があったりし、総じて多くの人々に親しまれていること
・子供から大人まで、深海魚・深海生物といえばこれ!と言われるほど、しばしば話題に出たり描かれたりしていること
・形態や生態における様々な点において深海に適応した特徴をもっており、深海魚・深海生物を代表しうる存在であること
必ずしもこれが「アイドル」の条件というわけではありませんし、厳密に見れば一部該当しない概念もあるかもしれませんが、だいたいこのような考えでした。

深海生物アイドルの元祖はチョウチンアンコウ殿でしたか。


そして、深海生物にアイドルという概念を持ち込んだ元祖は堀博士でした。
私のぐ〜るぐる検索エンジンにも情報をインプットしておきましょ。


結果的にメンダコを最初にアイドルと呼んだのは、今のところ「えのすい」さんだと言えそうです。
メンダコをアイドルにした、もうひとつの存在
私としたことが、今になって大事なことを思い出しました。

!!ドキドキ……。

22種類の深海生物さんたちのキャラクターユニット「Shinkaizoku(シンカイゾク)」がサンリオから2015年にデビューしています。


出典:https://www.sanrio.co.jp/characters/shinkaizoku/

10年も前に、堂々のセンターポジション!
「深海の自称アイドル!メンダコのメンタくんは、どこまでも潜れる特殊能力をもっていて、タコだけど墨は吐かないことにしている」そうですよ。自称とは控えめですねぇ。


「メンダコ=深海のアイドル」の概念が、まだ定着していないことがキャラ設定から感じられます。
深海のアイドルにも下積み時代があったとは、いやはや。

出来事をまとめるぞ。
2007年7月 萩博物館の堀博士がアンコウの仲間をアイドルと呼んだWEBページ公開
2012年4月 新江ノ島水族館がメンダコをアイドルという言葉を使わず紹介
2012年6月 新江ノ島水族館がアカグツやミドリフサアンコウをアイドルと表現
2012年12月 新江ノ島水族館が動画「お耳が生えた深海のアイドル」を公開
2015年3月 サンリオから「Shinkaizoku(シンカイゾク)」がデビュー


なるほど。じわ〜っと広まっていた深海生物をアイドルに見立てる風潮が、キャラクターの存在を通して定着していった経緯が伺えますね。
みんなが深海生物に親しんでほしいという願いが、深海のアイドル・メンダコちゃ〜んを生んだということでしょう(ニッコリ


多くの人から愛される存在は、時に新しい概念を生むんですね。
私も、フカメディアのアイドルを自称しましょうか(テレ


あ、ウチにはフカブカというアイドルがいるから間に合ってます。

フカッ!
ちっ。

取材にご協力いただいた、新江ノ島水族館の山崎秀之さん、萩博物館の堀成夫さん
ありがとうございました!
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